新着情報

news

  • 空間時間デザイナー
広島で出会った、家族の幸せを支えるカタチ

コロナ禍―。まさに「巣ごもり需要」と言われ、人々がかつてないほど自宅のインテリアに目を向けていた真っ只中のことでした。私は会社からの辞令を受け、広島へと異動になりました。

私自身、広島にはこれまで縁もゆかりもなく、「まあ、新しい土地での生活を楽しもうか」くらいの、どこか気楽な気持ちで新生活をスタートさせました。

配属先となったのは、広島T-SITE店。ここは「蔦屋書店」という、お客様の「空間」や「時間」を何よりも大切にする商業施設の中に構える店舗です。オープンして3年目ほどのまだ新しい店舗でしたが、施設全体のコンセプトの影響もあり、ご来店されるお客様は一様にインテリアへの関心が高かったように感じます。ここで働く日々は毎日がたくさんの学びに溢れており、お客様との良好な関係性も非常に築きやすい、魅力的なお店でした。

 

 

そんなある日、今でも忘れられない、あるお客様との出会いがありました。

いつものようにお客様をご案内していると、三世代で仲睦まじくご来店されたご家族が目に留まりました。お話を伺うと、お孫さんの新居祝いの家具を探していらっしゃると。そして驚いたことに、その家具をプレゼントされるのは、ご一緒にお越しになっていたお祖母様でした。

お孫さんの新しい門出に家具を贈られるなんて、なんと素晴らしいことでしょう。そんな会話をきっかけに、私とお祖母様との間で話が弾みました。

「私ね、今年で93歳になるのよ」

それを聞いた瞬間、私は思わず声を上げて驚いてしまいました。失礼ながら、それまで私の人生の中で90歳以上の方とじっくりお話しする機会自体がなかったことも1つの理由ではありますが、何より目の前のお祖母様が、年齢を全く感じさせないほどに本当にお元気だったのです。

正直なところ、そこからは家具の提案そっちのけで、お祖母様のその溢れるバイタリティの方に私の興味はすっかり惹きつけられてしまっていました。

 

 

さらに話を聴き進めると、さらなる驚きが。
「私ね、実はまだ現役で仕事をしているし、会社を経営しているのよ」

そのお言葉を聞いたとき、私は胸の奥がじんわりと熱くなるような嬉しさを覚え、気がつけば一人の人間として、自分が本当に心から聞いてみたい質問を投げかけていました。

「どうして、そのご年齢になるまでお仕事を続けられているのですか? 私も仕事は長く続けたいと思っていますが、お祖母様は経営もされていて、経済的にも十分に余裕があるはずなのに、どうしてそこまで頑張れるのですか?」

すると、お祖母様は穏やかに、しかし力強い眼差しでこう答えてくださいました。

「家族に喜んでほしいのよ。私はね、若い頃に戦争を経験したの。だからこそ、もう二度とあんな風に、みんなに苦しい思いをさせたくない。その一心で今まで働いてきたのよ。そしてね、家族で過ごす時間をもっと楽しく、幸せなものにしてほしいの」

その言葉が、私の胸に深く突き刺さりました。

「ああ、私はインテリアを販売しているからこそ、このお話を聴くことができたのだ」と、そのとき猛烈に腑に落ちたのを覚えています。人が家具という大きな買い物をする裏側には、必ずその人の人生の背景があり、大切な人への溢れんばかりの想いが乗っかっている。そしてインテリアとは、ただの部屋の飾り付けではなく、そこで営まれる「家族の幸せな時間」を文字通り支える存在ということを、お祖母様から教えていただきました。

 

 

この経験を境に、私の仕事への向き合い方は大きく変わりました。

その後も何度か転勤を経験したが、今では新しい土地に赴くたび、「その土地が持つ歴史や文化には、どんな背景があるのだろう」と進んで触れ、私自身がその土地を深く楽しむようになりました。目の前のお客様が歩んできた人生や、その土地の記憶に寄り添うことが、より深い提案へと繋がることを知ったからです。

あの広島の地で、93歳の経営者のお客様からいただいた大切な教え。
これこそが、インテリアの販売という仕事だからこそ生まれる、かけがえのない物語なのだと確信しています。

OTHER NEWSその他の記事